虚淵玄が用意した最大の仕掛け ―魔法少女まどか☆マギカ総括―

 皆様、お久しぶりです。
 サボりにサボって実に1ヶ月ぶりの更新です。


 さて、久々に面白いアニメであったまどかマギカが先週終わった。
 今月から社会人である私は、まどかマギカの放送をリアルタイムで見ることが叶わなかった。翌日、待ちに待った最終回ということで、飲み会を断り*1、はやる気持ちで帰宅し、食事もせずまま視聴した。
 しかし、最終回を見終わった私の中には残念な気持ちが残ることになる。そこで、友人とskypeまどかマギカ最終回について話すことにした*2。結果*3、マイナスの気持は晴れて、残念だと思っていた部分が、素晴らしいものだと思えるようになったのだ。
 今、私がまどかマギカに対して残念だと思っているのは、第11話と第12話の放送の間に視聴者に考えさせる時間を挟まなかったことだけ*4で、作品自体にもう不満はない。


 前置きが長くなったが、本記事では、私が一瞬は残念に思い、そしてすぐに素晴らしいものだと言うことになったまどかマギカ全体に渡って仕掛けられた1つの大きな仕掛けについて述べる。


 まどかマギカには原作がなく、視聴者は全員先の展開を知らないため、先の展開を予測するなど大いに考察と議論が盛り上がる結果となった。QBの正体、魔女の正体、ほむらの正体*5など様々な説が起こった(だろう)が、まどかマギカが視聴者へ課した最大の問題は「では、まどかたちが幸せになるにはどうすればいいでしょう? 予想してください」だ。QBや魔女の正体は、この最大の問題を解くための情報を小出しにした結果生まれた小さな問題でしかない。


 問題解決のために、まず、簡単に思いつくのが、「まどかの願いでどうにかする」方法だ。まどかはどんな願いでも叶えることのできる素質を持ち、スタッフが11話かけて創り上げてきた悲劇の世界を一声でリセットすることのできるデウス・エクス・マキナ*6である。そして、まどかの願いで幸せをもたらす展開であると仮定すると、次は「じゃあ、願いの内容は何でしょう?」という問題が立ちふさがり、多くの人がこの問いに挑んだ。


 2つ目以降の方法には詳しく触れないが、まどかの願いを使わない方法に大別される。こちらを支持する人は、なんでも願いを叶えることができるなんてあからさまに釣り糸だし、さすがにまどかの願いは使われないだろうという予想に基づく。しかし、この方法で問題を解決できるんじゃないかと考えた人は決まってある問題にぶつかる。私もその1人だ*7。その問題は魔法少女-魔女システムである。
 魔法少女-魔女システムの恐ろしい所は、QBが目的を達成して地球からいなくなると魔法少女が生まれなくなるため、次第に魔女も少なくなっていくことで魔法少女の魔女化が進行する、または魔女が多くなりすぎて少数の魔法少女では対抗できなくなることだ。ハッピーエンドを迎えるためにはQBをどうにかするしかないが、QBをどうにかしたところで魔法少女-魔女システム生きているために地球は将来的に魔女に支配されることになる。


 QBを退けたところで、魔法少女-魔女システムが生きているためにハッピーエンドを迎えることができない。ならば、まどかの願いで、魔法少女-魔女システムを崩壊させればいいという結論にたどり着く。何度も言うが、まどかの願いはデウス・エクス・マキナだ。どうにもできない悲劇(=魔法少女-魔女システム)に対しても、彼女ならハッピーエンドをもたらすことができる。「まどかの願いは釣り針だ」という先入観なしに、後から振り返るからこそ言えることだが、「まどかの願いによる魔法少女-魔女システムの崩壊」が第10話まで見たときに導ける最高の解答だったと思う。


 第10話時点では「まどかの願いによる魔法少女-魔女システムの崩壊」が最高の解答だった。しかし、第11話でそれは最低の解答の1つになる。魔法少女-魔女システムは人類の歴史に古くから根ざし、社会の裏から人間社会の発展を支えてきたものだと明かされたからだ。魔法少女-魔女システムの崩壊は、つまり人間社会の崩壊を意味するのだ。
 これが、私が第11話と第12話の放送の間に時間を置くべきだったと主張する理由である。情報を小出しにしたことで、第10話時点で与えられていた情報から考えた最高の解答を、第11話が踏み潰す。第10話放送後に「魔法少女-魔女システムの崩壊」にたどり着いた視聴者は唖然としたことだろう。虚淵にハッピーエンドを望むなんて所詮無理だったんだと悲嘆にくれるだろう。
 第11話までの情報をすべて合わせるとハッピーエンドの解答がなくなる。何が起こっても魔法少女は幸せになれない。


 では、実際にはどうだったか。
 第12話でまどかは「魔法少女が魔女にならないこと」=「魔法少女-魔女システムの崩壊」を願う。
 まどかが魔法少女が不幸になるくらいなら洞穴での生活でもいいと思ったのか、そこまでまどかの考えが及ばなかったのかは不明だが、まどかは最悪の選択をしてしまった。


 しかし、みなさんも知っての通り「魔獣」という魔法少女-魔女システムの代替物が突如出現することで、魔法少女-魔女システムが支えてきた人間社会は崩壊せずに済んだ。
 魔獣こそが、私が勘違いしたことであり、素晴らしいと言うものだ。
 「魔獣が『突如』出現した」と書いたが、それは間違いである。
 魔獣出現の予兆は視聴者の最も近くに、最も長く置かれていた。
 その予兆こそが、まどかの願いである。


 何度も言おう。まどかの願いはデウス・エクス・マキナである。しかしそれは、見え見えのデウス・エクス・マキナだ。
 あからさますぎるから、まどかの願いを使用する方法以外でハッピーエンドを模索した。だが、魔法少女-魔女システムに対して為すすべがないために、結局は見え見えのデウス・エクス・マキナに頼ることになってしまった。
 ところが、11話によってデウス・エクス・マキナの欠陥が明らかになった。
 どんな物語でもハッピーエンドに変える神でも立ち向かえない悲劇、それが虚淵なのか!と視聴者が嘆くことになる。


 そこで登場するのが、本物のデウス・エクス・マキナ「魔獣」*8である。
 虚淵は、偽のデウス・エクス・マキナ(=まどかの願い)をわざと見せることで、視聴者が本物のデウス・エクス・マキナ(=魔獣)が出てくることを予想する可能性を0にまで刈り取る*9とともに、本物のデウス・エクス・マキナの出現に脚本としての説得力を持たせた。
 まどかマギカは、まどかがデウス・エクス・マキナと見せかけて、最後に本当のデウス・エクス・マキナが登場する物語なのだ。

*1:飲み会を断った本当の理由は体調不良。

*2:私は基本的に人に話すと自己解決するので、話に付き合わされる友人は迷惑極まりないだろうね。

*3:時間にして約2分の一方的な会話。

*4:理由は後述する

*5:黒猫は一体なんだったんだろうか。

*6:明確に提示されているのだから正確にはデウス・エクス・マキナではない

*7:「ほむほむの時間逆流で魔女エネルギーを無限に稼ぐ」という方法を本ブログに書いたが、ここで取り上げる問題以外に、QBの持つエネルギーのみが時間逆流の中でそのまま保存されなければ成立しないという重大な欠陥を抱える。

*8:魔獣は、デウス・エクス・マキナであるからこそ、デジタル(=機械仕掛け)の聖人(=神)の姿で描写されているのだろうと考える。

*9:もともとが0だろうというツッコミは勘弁ください。